リハビリから自分を振り返る 『あなたは、何のために努力していますか?』
患者さんとリハビリをするとき、 「退院したら何がしたいですか?」「どんな生活に戻りたいですか?」 そんなことを聞く機会があると思います。 その人にとって何が必要なのか。その人自身はどうなりたいと思っているのか。 ニードやホープを確認しながら、目標を考えていく。
患者さんとリハビリをするとき、
「退院したら何がしたいですか?」
「どんな生活に戻りたいですか?」
そんなことを聞く機会があると思います。
読み込み中...
患者さんとリハビリをするとき、 「退院したら何がしたいですか?」「どんな生活に戻りたいですか?」 そんなことを聞く機会があると思います。 その人にとって何が必要なのか。その人自身はどうなりたいと思っているのか。 ニードやホープを確認しながら、目標を考えていく。
患者さんとリハビリをするとき、
「退院したら何がしたいですか?」
「どんな生活に戻りたいですか?」
そんなことを聞く機会があると思います。
その人にとって何が必要なのか。
その人自身はどうなりたいと思っているのか。
ニードやホープを確認しながら、目標を考えていく。
セラピストにとっては、普段から行っていることかもしれません。
では、少しだけ自分に置き換えてみてください。
仕事が終わってから勉強する。
休日に研修会へ参加する。
分からないことがあれば論文を読む。
何かしら頑張っている人は多いと思います。
でも、
「何のために?」
と聞かれると、意外と答えるのが難しくないでしょうか。
例えば、突然こう言われたとします。
「これから毎日30分、この勉強をしてください」
必要性も、その先に何があるのかも分からない。
これを毎日続けるのは、少ししんどそうです。
一方で、
「半年後、この分野の患者さんをもっと自信を持って評価できるようになりたい」
と思っていたらどうでしょうか。
同じ30分の勉強でも、少し意味が変わります。
やっていることは同じです。
違うのは、
その行動が、自分の目指しているものにつながっているか。
目標設定は、行動やパフォーマンスとの関係が長く研究されてきました。行動変容研究をまとめたメタ解析でも、目標を設定することには小さいながら一定の効果が報告されています。
Locke & Latham, 2002 / Epton et al., 2017
ただし、
「目標さえ立てれば、やる気が出る」
という単純な話ではありません。
ここで、いつものリハビリに戻って考えてみます。
「大腿四頭筋が弱いので、この運動を10回3セットしてください」
「歩く練習をしましょう」
「家でも続けてください」
私たちは評価したうえで、必要だと思うことを提案しています。
当然、そこには専門職としての理由があります。
でも、その理由は患者さんにもつながっているでしょうか。
「なぜ、この運動をするのか」
「これができるようになると、自分の生活の何が変わるのか」
そこまで患者さん自身が分かっているでしょうか。
自分に置き換えると、
「何のためか分からない30分」を続ける難しさは想像できます。
では、患者さんにお願いしている運動はどうでしょうか。
リハビリでは、その人に必要なものを考えます。
筋力が必要。
可動域が必要。
持久力が必要。
屋外歩行能力が必要。
これは、専門職として考える「ニード」です。
一方で患者さんは、
「また自分でスーパーへ行きたい」
と思っているかもしれません。
ここで、
「屋外歩行を獲得する」
という目標と、
「もう一度、自分でスーパーへ行く」
という希望を比べてみます。
似ていますが、少し違います。
「屋外歩行が必要だから歩く練習をする」
のか、
「自分でスーパーへ行きたい。そのために屋外を歩ける必要がある」
のか。
後者では、
ホープ → 目標 → 必要な能力 → 今日のリハビリ
が、一つにつながっています。
人を中心とした目標設定について22研究を整理したシステマティックレビューでも、本人が目標設定に参加することが重視されていました。一方で、目標を決めても、その後の行動計画や障壁への対応、フォローアップまで十分に組み込まれていない介入も多いことが報告されています。
Kang et al., 2022
つまり、
「ホープを聞いた」
「目標を書いた」
だけでは、まだ途中なのかもしれません。
HOPE
また自分でスーパーへ行きたい↓
GOAL
自宅からスーパーまで歩いて往復する↓
NEED
屋外歩行能力・持久力・疼痛への対応↓
TODAY
では、今日のリハビリで何をするか
私たちは専門職なので、評価をすれば、
「ここを改善した方がいい」
「この動作が必要」
「この練習をした方がいい」
と考えることができます。
それは専門職として必要なことです。
ただ、答えを持っているからこそ、
患者さんと目標を決めたつもりが、セラピストが決めた目標を説明しているだけになっていないか。
これは一度振り返ってみてもよいと思います。
リハビリテーションにおける目標設定とShared Decision Makingを扱ったシステマティックレビューでも、患者が目標設定にどの程度参加できているかには幅があり、その過程にはさまざまな障壁があることが報告されています。
Rose et al., 2017
もちろん、
「患者さんの希望を、そのまま目標にしましょう」
という話ではありません。
患者さんには、医学的・身体的に何が必要なのか分からないことがあります。
一方で私たちには、
その人が何を大切にしていて、何を取り戻したいのか、
聞かなければ分からないことがあります。
だからこそ、
専門職として考えるニードと、本人が持っているホープを、一緒に目標へ変えていく。
そこに、目標設定の意味があるのだと思います。
ここは少し注意が必要です。
目標設定はリハビリテーションで広く用いられていますが、
「目標設定をすれば身体機能が必ず良くなる」
とまで言えるわけではありません。
成人リハビリテーションを対象としたCochraneレビューでは、目標設定によって自己効力感などが改善する可能性が示される一方で、活動・参加やリハビリへの関与については明確な結論が出ていません。
Levack et al., 2015 / Cochrane review summary
高齢者リハビリテーションを対象としたレビューでも、通常ケアと比較して身体機能が明確に改善するという結果は確認されていません。
van Seben et al., 2019
だから、
「目標設定をすれば治療成績が上がるからやりましょう」
ではないと思います。
それよりも、
患者さんとセラピストが、何を目指して今日のリハビリをしているのかを共有する。
そのために目標を使う。
この捉え方の方が、臨床では大切ではないでしょうか。
自主トレをしてくれない。
運動に積極的ではない。
何度説明しても行動が変わらない。
そんな場面はあります。
もちろん、すべてを目標設定だけで説明することはできません。
疼痛、疲労、不安、生活環境、認知機能、家族との関係。
いろいろな理由があります。
それでも、
「この人はやる気がない」
と考える前に、一つだけ確認してみてもよいと思います。
この人にとって、今日このリハビリをする意味は共有できているだろうか。
最後に、もう一度自分の話に戻ります。
あなたは今、何かに努力していますか。
その努力は、何につながっていますか。
何ができたら、
「少し前に進んだ」
と言えますか。
自分のこととして考えてみると、
何のためか分からないまま頑張り続けることは、意外と難しい。
だからこそ、患者さんにも同じように考えてみる。
この人は、何をしたいのか。
なぜ、それをしたいのか。
そのためには、何が必要なのか。
そして、
今日行うリハビリは、そこにどうつながっているのか。
ニードとホープを聞くこと自体が目的ではありません。
その人が目指している場所と、私たちが提供するリハビリをつなぐために聞く。
目標は、計画書に書くためだけのものではなく、
「何のために、今日これをやるのか」
を患者さんとセラピストが共有するためのものなのだと思います。
次の患者さんを担当するとき、
一度だけ考えてみてください。
「この人は、何のためにこれを頑張っているんだろう」
任意のチップで、講師陣とGBCの情報発信を応援できます。コラム購入とは別のお支払いです。
同僚や友人へ情報を送れます